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Luna di Miele No.6 天国の季節

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南野 尚紀 

 地上には季節がない土地というのがあるが、天国にはどうやら季節のようなものがあるらしい。

 Botticelliボッティチェリの有名な絵画に、『Primaveraプリマヴェーラ』と題された作品があるが、この言葉は日本語で、「春」を意味するイタリア語だ。

 絵画はFirenzeフィレンツェのウフィツィ美術館に飾られているので、Firenzeに訪れることがあったら、観ることをオススメする。名画なので、言うまでもないことだが、作品に描かれている女神と春という季節は、関係がある。

 『Primavera』は、貞操を守ること、つまり浮気をしないことと、天国を類推することも描かれているが、これは女神と出会うための方法だ。

 出会いというのは、運命を呼ぶこと、運命に呼ばれることと関係があるし、ある条件が整うと会える確率が上がる人というのはいる。

 政治の世界には、政治が好きな人が集まるし、読書会には本が好きな人が集まるし、オタクのパーティにはオタクが集まるように、出会いにもバイアスがあるのだろう。

 Firenzeにいるべき人はFirenzeにいるし、Polandポーランドにいるべき人は、Polandにいる。天命があって別の土地にいたとしても、必ずその土地を信じて生きている、それが信仰の一部であり、魂の祖国だ。

 浮気せずに、天国を類推しながら、春を待っていれば、必ず出会える女性というのがこの世の中にはいる。

 おそらく、彼女は天国では、春に天国の中心にいるのだろう。

 つまり、季節によって、天国の中心人物が変わるということになる。

 ZARDの坂井泉水も、TUBEも夏の歌をよく歌うが、もしかしたら、天国では、夏に天国の中心にいるのかもしれない。

 秋は天国の中心にだれがいるのだろう。

 冬は天国の中心にだれがいるのだろう。

 そんなことを考えるのも、おもしろいかもしれない。

 関係あるかわからないが、モデルのローラは、犬にアキと名づけているし、にこるんは犬にユキと名づけている。

 僕は春の生まれなのだけど、これも関係があるのだろうか。

 少なくとも、僕は春の女神のような彼女・仁美さんを待ち侘びている。

 今年の春にも、保坂和志さんのお花見会で、仁美さんに似ている女性、保坂さんの奥さん・清水チエさんと会ったし、仁美さんに会ったのも春だった。

 決定的な出会いというのは、天国の神・女神が会議で、地上の人間にだれを派遣するかで決まるらしい。

 ホメロスの『オデュッセイア』にも同じことが書かれていたが、それには女神に好かれるための祈り、言動が必要になるのだろう。

 彼女が浮気しないことにこだわるのは、なぜなのか。

 ふつうの女性は、浮気は嫌いだし、Italiaイタリアでもカップルで行動することが多いので、そもそも浮気はできない。

 ロマンティックラブが当たり前の国なので、みんなそもそも浮気をしたいとも思わないのかもしれないが。

 中世ヨーロッパに成立した騎士道精神には、恋愛賛美の考え方がある。

 騎士が戦争に行く際に、女性は貞操帯をつけて、不倫ができないようにしたこともあるそうだし、男性も女性に忠誠を誓ったそうだ。

 Danteダンテは、永遠の淑女・Beatriceベアトリーチェに忠誠を誓っていた。

 これは、僕個人の考えだが、春はいちばんParadisoパラダイソのイメージに近い。

 「冬」はイタリア語で「invernoインヴェルノ」と言うが、「infernoインフェルノ」、つまり地獄と関係があると、イタリアでは捉えられているようだ。

 『La Divina Commediaラ・ディヴィナ・コメディア 神曲』で、ダンテは地獄、煉獄を抜けて天国に辿り着く。

 地獄の季節である冬を通り越した先に、天国であるところの春があるということと、天国の体系がつながっていることも、類推可能だ。

 文化が栄える時代というのは、暗黒期を抜け出した後であることが多いし。

 来年の春、彼女と会えると信じよう。

 彼女ともし会えたら、アルノ川沿いにあるレストラン、とても混んでいて、予約なしでは中に入れない暗い人気の場所なのだが、そこで一緒にアペロスピリッツを飲みながら、音楽について、恋愛観について、文学・美術についての話がしたい。

了  

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