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イタリア美学15――ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』の美学、ダンテの人生の不思議――

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南野 一紀

 フィレンツェに来てから、Sheryl Crowのライブアルバムを聴くことが多くなった。
 Sheryl Crowの「Every day is a winding road」 は名曲として知られていて、僕も大好きな曲だ。
 歌詞の大筋はこんな感じ。
 ニューエイジ、つまり九〇年代に流行ったヒッピーに似た人々のことだけど、ニューエイジらしい女性が、ヒッチハイクして、自動販売機の修理をしてる男性の車に乗って、いろんな話を聞き、自分の旅について考える。
 
 
 Why I’m a stranger in my own life?
 
 
 ウフィツィ美術館、ダンテミュージアムのガイドをしてもらった次の日に、この歌詞について考えていた。
 意訳すると、「あたしはなんで、あたしの人生の異邦人なんだろう」で、もっといえば、自分の人生のはずなのに、自分だけが自分の人生の異国のひとで、自分の人生という名の異国の街を旅してるんじゃないかって感じがするときがあるってことなんだろう。
 それはきっと、自分の人生は自分で決められる部分も多いはずなのに、もともと運命によって定められているような、その土地や時代に縛られているような感じもするし、それでも自分の運命に従えば、それはそれで、自分の意思で生きてないといわれるような人生の中を歩いてる感覚かもしれない。
 ウフィツィ美術館では、いろんな作品を見たけど、いちばんだったのはボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』、『プリマヴェーラ』、『剛毅』だった。
 『剛毅』は七つの作品の連作のひとつで、裁判所に飾られていたそうだ。
 左から順番に、『剛毅』、『節制』、『信仰』、『慈愛』、『希望』、『正義』、『賢明』と並んでいて、中心に近いほど裁判所では徳が高いとされていた。
 これは新プラトン主義の影響でそうなっただけで、ボッティチェリ自身はそう思ってなかったんじゃないかと僕は推測してる。
 なぜならボッティチェリが描いた『Fortezza』(=邦題『剛毅』)も、いちばん右に描かれてる蛇の絵とキレイな女性の絵画『Prudenza』も(=邦題『賢明』)そうだけど、人間が美に近づく上でもっとも大切なものだからだ。
 Fortezzaは「要塞」を意味していて、英語ではfortressになる。
 西洋の古典絵画は、左から右、下から上の順に物語になっているものがほとんどなので、本作もその見方では『Prudenza』が物語の最後になるし、作者であるピエロ・デル・ポッライオーロが配置したから中心でなかっただけで、ボッティチェリが配置を決めていたたら、『Prudenza』は中心にきていたかもしれない。
 ダヴィンチもそうだけど、プラトンが好きなアーティストが多かったので、ボッティチェリが好きだったフェレンツェで有名だったとされる絶世の美女・シモネッタのような女性は、不遇だったんだろう。
 『Primavera』(邦題『春』)は、中心人物である春の女神プリマヴェーラの物語が描かれていて、向かって左にいる男は木の棒で、雲を突いて空を見ようとしている。
 木の実を取ろうとしているようにも見えるので、『旧約聖書 創世記』の物語も想起させるし、世の中の法則を俯瞰したいという哲学が込められているというのが正統な解釈だそうだ。
 中心人物の右隣には、触れたものをすべて花に変える女神もいる。
 『La Nascita di Venere』(邦題=『ヴィーナスの誕生』)は、『旧約聖書』のアダムとイブの楽園追放の物語、つまり蛇によって知恵の実を食べて、裸でいることが恥であるという罪悪感を感じた最初の人間が地上に降りるという話で、それと似てて、赤いマントで裸を覆い隠すことで、成熟した女性の美が完遂されるというストーリーを、ギリシャ神話のヴィーナス、親戚である神々の禍によって不幸である絶世の美女と重ね合わせて描かれているんだろう。
 ボッティチェリが『La Nascita di Venere』を描くことによって、精神的な成長のストーリーの告白をしているともとれるが、これが内面告白である以上、矛盾はしている。しかし、本当の美人とイケメンが相互に支え合うことは、最高の美徳であり、美人画を描くことによって、個人の恋愛観も世界に認めさせ、さらには、普遍の真理にも到達できたということは偉大な価値だと僕は考える。
 そのあと、ダンテミュージアム、カフェでガイドの女性といろんな話をした。今にして思うと、ガイドの女性との会話すべてが、ボッティチェリへの賛辞だったような気がする。
 インスタの話とか、仕事の話もしたけど、ダンテがフェレンツェから追放されたのち、ふつうでは考えられないほど、長い旅をしたということについての話が、深く思い出に残った。
 彼は、ラヴェンナにたどり着く前後、宮廷で教師をやっていたそうだが、「ダンテがはじめて行く土地の宮廷で、突然、教師やってたってことは、毎回、行く先々で自分の作品読んでもらって、宮廷のひとたちを納得させたってことなんですか?」って聞いたら、「多分そうだと思います」ってガイドの女性は答えてたし、実際そうだったんだろう。
 ボッティチェリへの賞賛の言葉はもっとよく考えたいところだけど。
 ボッティチェリの絵画はいずれまた、美術館に観に行きたい。
 ギリシャ神話の女神、パラス・アテネがケンタロスの髪の毛を掴む絵画も、観られなかったし笑 
 

                                了 

#イタリア #旅 #アート #ボッティチェリ #ダンテ #文学 #エッセイ #南欧美学 #ポップス

#美学 #哲学 #フェレンツェ #フローレンス #イタリアンカルチャー

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