南野 尚紀
フィレンツェにいて、街の人とは話す機会があるし、イングリッシュパーティーに出たり、語学交換をアプリ使ってイタリア人と話したりしても、不思議なことにフィレンツェのことをフィレンツェって呼ぶ人もいるけど、あまり多くなくて、ほとんどみんなフローレンスFlorenceって言葉でこの土地を呼んでる。
だからここでは、フローレンスっていう言葉を使うことにするけど、フローレンスは、僕個人、自然が豊かで、穏やかな街だなぁって感じがして、すごく好きだ。
僕が宿泊してるホテルの近くには、「心」っていう名前のイタリアンジャパニーズレストランがあって、入り口に着物とか、こけしとか民芸品がおいてあるお店なんだけど、ここも大当たりだった!
その時、接客してくれたウエイターさんは、四〇代くらいの礼儀正しい人で、しゃべったけど、すごく感じがいい。
「心」には、アサヒビールとか、枝豆とか、竜田揚げとか、刺身とか、お寿司とか、アボガド丼とか、いろんな種類のものがおいてあって、どれにしようかすぐに決められないくらい、いい品がそろってた。
最終的に僕が頼んだのは、豚の角煮丼で、これが驚くくらいおいしい。
上に乗ってる半熟の煮卵も、イタリアでは完熟の卵が多かったから、大好きな半熟卵を食べられて、しあわせだったし、そもそもイタリアンには、豚肉をみりんとか、お酢とか、砂糖とか、しょうゆでアレンジして食べるってなかなかないから、あれも懐かしい感じがするくらいおいしかった。
お米は日本のコシヒカリを取り寄せて、イタリアで育てたものを使ってるそうで、この頃、イタリアで食べるお米とか、トルコレストランで食べるビリヤニとかばっかり食べてたから、みずみずしくて、やわらかい感じがよくて、変な話、癒されるっていう感じがした。
もちろん、僕は日本にいても、インドレストランのビリヤニとか、イタリアンレストランのリゾット好きで、リゾットは自分でアマゾンで買って、アスパラガスのリゾット、食べてたくらいだから好きなんだけど、日本のお米も好きだなぁ。
ああいう感じって、日本のいいところだなぁって思う。
ひとを癒せるようなやさしさ、それも食べ物にそれを感じるって、すごいことなのかもしれない。
心のひとは日本の食文化のいいところをよくわかって、フローレンスのひとに届けたいっていう真心があるんじゃないかって気がする。
とにかく豚の角煮丼を食べて、僕は大満足した。
イタリア人がアレンジした日本の創作料理もすごく好きだけど、イタリアに来て、日本のよさを発信したいって気持ちで作った料理、これも好きだなぁ。
そういえば、村上隆っていうアーティストも、1人でニューヨークでアートやるって意気込んで渡米したけど、あんな大物アーティストでも、はじめはなにしていいかわからなくて途方にくれたらしい。
そんなときに、本屋で日本の将棋の漫画を見て、思わず泣いたっていってたのを「心」の豚の角煮丼を食べて、思い出した。
彼は売れなかった頃、借金五〇〇万円あったけど、それでもアートやったそうだ。
信念を持って続けてきたことを、途中で投げ出すことは、必ずや不幸につながるから、それを彼はわかってて続けたんだろうと僕は思う。
村上隆のアートや動画はその時のこと、よく覚えてるなぁっていうの時々感じるから、好きだ。
僕は淡白なところあるから、気を遣ってるふりをしてるだけになっちゃうことよくあるけど。
フィレンツェ買い出し紀行は、日本人が考える理想のイタリア像を、日本、南ヨーロッパ、東ヨーロッパの人々に届けたいって気持ちもあって作ってる。
もちろん日本の文学好きの人々とのつながりも意識してるから、日本文学の情報はたくさん掲載するし、日本語で書いてるから、海外の人にも翻訳機能と使って読んでもらうことを期待してる。
もっと言えば、日本に住む人で同じ物語をいいと思ってくれる人の心の安らぎや、休日の楽しい過ごし方のひとつのあり方や、恋愛の刺激にしてもらえたらなっても思う。
「心」のこととか、村上隆のこととか、今でも日本にいて、僕と仲良くしてくれてる人、それはもちろんSNSにいて仲良くしてくれてる人もそうで、そういう人たちの優しさをいつでも忘れないで、生きていきたい。
村上隆はすごい。世界の人の関わりの中で仕事してて、それでもアートをやってる日本の若い人たちにもちゃんと目を向けられるんだから。仕事って仲間ももちろんだけど、いろんな人への理解が重要だなって、こっちに来てからとも思うし。
僕の仲間にはやりたい放題やりまくってる姿も見せたけど、周囲の人々はほんとにいい人が多くてすごく幸せだなって思いますよ、心から感謝してます。
了
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