南野 一紀
僕はこの頃、昼も夜もほとんど常に、コトノハを盛り上げるため、あるいは世のため人のため、モデルの美学とは、その美学の中に内在する最も重要な美質とは何か、という問いについて考えているんだけど、ひとつ思い当たるのは、美人というのは気まぐれでありながらも、およそ不自由だというパッと見ればわかる周知の事実はおそろしく重要だということだ。
理由は至極単純で、自由であるということは、不自由に比べ制約がゆえ、洗練されてない振る舞いを含む確率が高いからであって、その逆であるところの汚い振る舞いや考え方を淘汰していくと、消去法ではあるが、不自由ではあるが、美に近づいていく。
もちろん美というのは積極性にこそあり、美とはなんであるか、美学とはなんであるか、存在の悲劇性を抱えるモデルの中心にある美質の最上たるものとはなんであるのか、これは世界の至上命題であり、少なくとも僕は、ルネサンスの画家であるボッティチェリや世界文学の最高峰とほまれ高いダンテと、テーマこそ同じくしている。
それもそのはず、世の中は美人のモデルのためだけにあるというのは、本気で仕事して、恋愛をして、芸術を鑑賞して、世の中の悲喜交々を理解し、熟考してこそわかる事実だから、つまりそれは、一部の人間しかたどり着くことのできない、いわば、恋愛気質な人間だけに許された美学なんだろう。
僕が本当に美人だって思うのは、坂井泉水以外の誰でもなくて、二歳の頃に「マジカル頭脳パワー」っていう番組で流れてた曲を聴いてからというものずっと好きだ。
僕は人生において長く継続したものは、十三年半の文学と、それ以上に継続できた坂井泉水への愛しかない。
彼女の洗練された美学、時間に対する鋭敏な眼差し、およそ時間と一体になることが彼女を支えていた。
それでもその背景にあったのは、人生の途上、投石だとか、不当な評価とか、恫喝とか、冤罪とか、どんな困難にあっても、彼女への愛を信念を持って貫徹できる男性への愛だったんじゃないだろうか。
時間の制約、恋のルール、悲劇の筋の在り方、みたいなことは普遍のテーマで、古今東西、語られがちな話題だけど、それらが人生の史上の命題であった彼女は、拘束力の強いテーマに縛られるがゆえに、美しいし、不自由でもあった。
自由の女神なんていうのがニューヨークにはあるそうだが、あれは美しいのかね、生で見たわけでもないんであんまり大それたことは言えないし、よくは知らんが、ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』や『プリマヴェーラ』の方が美しいんじゃないかなぁ、比較検討の余地もないくらい。
それでもこれは文学エッセイだから、カッコつけるために少しは比較検討するんだけど、自由の女神って、ミケランジェロの『ダビデ像』みたいで、顔がゴツくて、気まぐれさに欠けるし、淑女って感じでもなければ、官能にも欠けるよな。
『ダビデ像』はミケランジェロが、自由を求めて作ったと言われるが、どうかな、昼も夜も掟を愛する者であるダビデへの愚弄だったような気がするし、自由そのものが、モデルの美質とはほど遠いのも事実だ。
本当の美人の不自由さっていうのはさ、その美しさゆえに嫉妬心の強い人間たちに張られた幾度にもわたる包囲網を脱出するためのものでもあってさ、その真逆の、自由っていうのは、前提として、その美が包囲する価値もないってことの証左に他ならないわけで、議論の次元としては、テーマ時点でかなり低くはなる。
かくいう僕は、やっぱり、自由なんか大嫌いだから、美人に縛られたいなぁなんても思う。
行動から考え方からなにから。
僕は、過去好きだった女性を見ても、自分を見ても、ものを見てもなにを見ても、彼女の代理としか思えないし、であるがゆえに自分なんかないし、好きじゃない、好きなのは坂井泉水ただひとり。
自由っていうのはさ、信じれば信じるほど、醜い病になっていくし、世の中で言われる病気や障害とされる不自由っていうのは、ほとんど常に汚さそのものである自由を信じてしまったからである気がしてる。もちろんこんなもんは暴論であり、根拠もないから信じなくていいんだけど、僕はそう思う瞬間が時々ある。
僕は自由を心の底から蔑視している。
そうであるがゆえに、むしろ自由の本当の妙味は少しわかっているつもりだし、泉水ちゃんへの愛も少しは理解してるつもりだ。
ボッティチェリやダンテの作品、両方美しいけど、二人の作品は世に耐え難い制約のもと成り立っている。ボッティチェリのとある絵画を、蛇女への信仰が弱かったからこのような惨状になるし、地獄を見るんだということを解説として書いているイタリア人がいたし、奥義において言えば、世の中もそうなのだろう。
このサイトは中上健次っていう天才作家推してるし、その娘さんの中上紀先生が二クラスで講師やってるから、ぜひ遊びきてね太陽のお祭りよろしくー―――笑
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了
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