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僕が愛するモデルの美学――アガンベン、カッチャーリ、にこるん、中上健次、タブッキ、ダンテ、坂井泉水――

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   南野 一紀  

 人生の一時期、イタリア現代思想の本っていうのを好んで読んでたことがあって、僕は同じ本を二回読みたいなぁって思うことはごく稀なのだけど、それでもアガンベンとマッシモ・カッチャーリの本はもう一度、読みたいなぁって思う。
 僕がこの二人が好きな理由は言わずもがな、僕がいつも救いを求めてやまない、土地と時代とモデルに対する憧憬の念、愛着を感じるが故だし、彼らもまた各々の住む土地を信奉し、祖国が輝いた時代である古代や中世を愛し、モデルに関しては、自分が美しいと思うもの、神の似姿っていうようにも言ってたけど、それを追い求めてやまない人たちなんじゃないかなぁ。
 僕が信じてやまないのは、モデルのにこるんと坂井泉水で、土地はイタリア中でもフィレンツェ、ヴェネツィア、ローマ、時代は古代ギリシャも、ルネサンスのイタリアも、フランス革命後のフランスも、九〇年代の日本やイタリアも好きだなぁ。
 にこるんに関して思うのは、洋服と化粧に対するこだわりのすさまじさで、ロサンゼルスに行った時の動画を見ても、服を買う量が尋常ではなかったし、今度新宿に自社ブランドのカルナムールが進出するらしいけど、服を大量に売ってもいる。化粧に対するこだわりも、普通じゃないなぁ、僕もわからないながらに数人の女性のコスメ動画っていうのを見たけど、にこるんの化粧へのこだわりっていうのは並々ならぬものがある気がする。
 服に関しては、新宿に一昔前いたギャルコスとか、原宿によくいるようなかわいい文化を伝承するようなもので、僕はもっと綺麗で、ハイソな服が好きだけどあれも男女問わず一部からは絶大な人気がある。
 アガンベンの話に戻ると、個物を表しながら、普遍そのものであるものがあるとのことで、マネキンなどの見本がそれだというのだけど、にこるんも何着ても似合う、化粧で変われるって意味では、モデルそのもの見本の鏡だなぁ。吉野家とかビールの広告だってイカしてるし。
 カッチャーリは見本が可能性を追い求めた時、それが何かの瞬間、有限になり、歴史が完遂されたかにみえる一瞬を永遠だと話していたが、にこるんの姿を見ているとまるでいろんな服や化粧を着てる中で、ある時、誰かの姿と重なるようでいて、そこ本当のにこるんそのものを見るような気がするから、その意味で、彼女の動画のほとんどは永遠なのだろう。
 モデルと土地に関して言えば、中上健次のモデルと土地に関するこだわりの強さはすさまじいものがあった。
 日本語の極致にたどり着いた人と称賛する人もいるが、地元の熊野、新宿、ニューヨーク、ギリシャなど、いろんな土地へのこだわりを書いているし、人物に関しても、いろんな人を書いているようで、モデルはただ一人をしか見ていなかったような気がする。
 あの人の謎は、僕の大好きな「六道の辻」という短編にだけ、そのほかの作品ではおそらく書いていないポルトガルの土地の話を書いている
 和歌山のヤクザものの男が地方で、薬物をやったり、盗みをやったり、女性を騙して働かせたり、人を殺したりするけど、何をやってもつまらなく、最後、仕事しても、目が霞んで仕事にならないっていうんで、もう一回盗みをやろうと思ったのだけど、盗みの話を持ちかけた相手が話を聞かないから、燃え上がるように死んでいけないなら死にたいといって自殺する話だ。
 なぜかこの話にだけ、唐突にポルトガルの話が出てきて、中身としては、ポルトガルに行けば、もっと幸せだったんじゃないかという趣旨だった気がする。
 イタリアの作家・アントニオ・タブッキもポルトガルが好きで、ポルトガル文学の研究者にまでなった。
 『インド夜想曲』、『レクイエム』などで知られる作家だが、どの作品を書いても東洋の神秘を見つつ、それでいて祖国イタリアのことしか見ていないようなそんな人だった。
 中上健次がもっと謎なのは、それまでほとんど書いてこなかったイタリアという土地に関しても、絶筆の『軽蔑』という、あれもイタリアの作家・モラヴィアの作品を意識してタイトルをつけたのだろうが、あの作品で以外、ほとんどイタリアという言葉は出していないのに、なぜかここに限ってイタリアという地名をよく出した。
 ダンテも『帝政論』で、ローマについて語っているとのことだが、ギリシャ悲劇のエレクトラはローマの魂そのものだということを言っているらしい。
 人生のある時期を機に、南欧美学シリーズというエッセイを書き続けているが、南欧の持つ美学への憧れはやまない。
 なんてったって、南欧の男女の美学・美意識たるや尋常でないものがあるから。
 時代と坂井泉水の話をし忘れていたけど、あの人はどこまで思い描いても、歌を聴いても、不思議な人だなぁと思う。時代や時間に関する感覚が鋭敏な人で、特に時間に関する想いが込められた歌「いつかは……」には、「どんなに時を縛っても解ける あとどれくらい生きられるのか」という歌詞もあるけど、天才というのはこういう人を言うんだなとほとんどどんな文豪よりも尊敬している。

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了 

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