Firenze shopping log

評論 芦奈野ひとし『コトノバドライブ』 感覚でドライブする、オトナのモラトリアム

41 Views

南野 尚紀 

 

 芦奈野ひとしの『コトノバドライブ』を久しぶりに読んだ。

 マンガ全体がどこか潮の香りがするし、モラトリアムしてる気分が余すところなく出ててステキだ。

 このマンガは麺屋ランプという、ミートスパゲッティとナポリタンしか売ってないお店で、アルバイトをしながら、バイクに乗り、ふつうとは違う不思議な体験をすーちゃんがするという話。

 たとえば、コンビニから出ると、霧に周囲全体が包まれたり、外で缶コーヒーを飲んでると、カナブンに乗った男の子に会ったり、いろいろ。

 絵的な話で言えば、このバックショットはうまい。

 夜に消えて遠ざかる背中、バイクの音までも遠ざかっていくのが聞こえてきそうで、どこまでもすーちゃんの感覚は奥へいっちゃうんだなって感じがする。

 少しロジカルな感じはするけど、感覚でしか捉えられないものを描いていて、感覚とものごとのつながり方も、独特に整理されてないローカルさがある。

 「寂しいけど、私は勇気を持って、内面の旅をしてたんだ」、そんなすーちゃんの声が聞こえてきそう。

 写真を撮ろうとするけど、バイクと店の写真ばっかり撮ってるというのも、わかるというか、写真はじめたはいいけど、テキトーにしか撮れない感じ、それもInstagramで発信して、ネットの海に流すのとは違う、個人的な写真が撮りたい、でも生活や等身大の感覚がなくなりすぎると写真はウソっぽくなる、そんな感じが描かずに伝わってきて素直にいいと思える。

 このマンガはJazzyだ。

 どこまでも感覚でアレンジして遊ぶ、言葉にならない言葉のドライブ。

 確か、すーちゃんには高校の吹奏楽部に入ったけど、体育会系のノリが嫌で、吹奏楽部を辞めたというエピソードがあった。

 音楽は文学に比べて、フィジカルな面があるので仕方ないことだけど、遊びやアレンジがないことがすーちゃんにとってキツかったのだろう。

 僕も料理教室で同じ経験をしてるので、よくわかる。

 そんなことはどうでもいい。

 このマンガを読んでわかるのは、オトナのモラトリアム、それもJRの広告に出てるわたせせいぞうの描いてる大人の休日倶楽部のようなマダムの休日ではなく(僕はわたせ先生の描くあの感じ天国だと思ってるけど)、しぶーいオトナの休日を過ごすのは、経験値がいるということだ。

 感覚でドライブして、遠くまで来ちゃったなみたいな、寂しいけど充実してるオトナのモラトリアム。

了 

ヨコハマ買い出し紀行(1)【電子書籍】[ 芦奈野ひとし ]価格:759円
(2024/11/29 18:56時点)
感想(4件)

PR

神戸在住(1)【電子書籍】[ 木村紺 ]価格:660円
(2024/11/29 19:01時点)
感想(0件)

#芦奈野ひとし #マンガ #日本 #エッセイ #評論 #サブカルサウダージ

#Hitoshi Ashinano #manga #Japan #essay #critique #Subculture Saudade

コメント

この記事へのコメントはありません。

関連記事

Soak Up The Sun きっと言葉も太陽を吸い込む

サブカルサウダージ 第6夜 益田ミリ『そう来る? 僕の姉ちゃん』 スーツもカッコいいけど、男性はスケスケ下着にはやはり弱い、過去の恋愛は友達以上恋人未満でいて欲しかったのか、それ以上いけたのか

フィトエッセイ マヨナカベル 第3夜 やさしさと癒しも精神美、あの人を客観的に見れるようになってきた

旅行と文学 夢のヒッピーデイ 第18回 オブラーテ図書館と、Firenzeで文学活動、文学生活の幅を広げるために

ダンテの先駆性、高貴な精神美を持つ女性からの逃避が世の中の悪性だという話

フォトエッセイ マヨナカベル 第5夜 Yokosuka Night Walking

文学あれこれ雑記 第4回 逗子作家と鎌倉作家、雨の日の読書に合う音楽について

オススメ記事

オススメ記事

  1. いつか言葉が眠る時を夢見て――ZARD・坂井泉水に寄せる想い――

  2. Dangerous tonight――結婚の理想にまつわる美人伝――

  3. 文学的な料理について考えてみた――スペイン料理への愛、パエージャの情熱――

  4. イタリア人女性と東欧の女性と飲んだ夜のこと――飲酒運転、スピード違反、文法、話題、フレーズをアレンジして外国語を使うという言葉の美学――

  5. ドン・キホーテが遍歴の旅に出たのは、なんのためだったのか?--古すぎる美を愛したひと--

  6. イタリア美学Ⅶ――イタリアのフードカルチャーを文学的に考えてみたオマール海老のリゾットのこと――

PAGE TOP