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評論 芦奈野ひとし『コトノバドライブ』 感覚でドライブする、オトナのモラトリアム

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南野 尚紀 

 

 芦奈野ひとしの『コトノバドライブ』を久しぶりに読んだ。

 マンガ全体がどこか潮の香りがするし、モラトリアムしてる気分が余すところなく出ててステキだ。

 このマンガは麺屋ランプという、ミートスパゲッティとナポリタンしか売ってないお店で、アルバイトをしながら、バイクに乗り、ふつうとは違う不思議な体験をすーちゃんがするという話。

 たとえば、コンビニから出ると、霧に周囲全体が包まれたり、外で缶コーヒーを飲んでると、カナブンに乗った男の子に会ったり、いろいろ。

 絵的な話で言えば、このバックショットはうまい。

 夜に消えて遠ざかる背中、バイクの音までも遠ざかっていくのが聞こえてきそうで、どこまでもすーちゃんの感覚は奥へいっちゃうんだなって感じがする。

 少しロジカルな感じはするけど、感覚でしか捉えられないものを描いていて、感覚とものごとのつながり方も、独特に整理されてないローカルさがある。

 「寂しいけど、私は勇気を持って、内面の旅をしてたんだ」、そんなすーちゃんの声が聞こえてきそう。

 写真を撮ろうとするけど、バイクと店の写真ばっかり撮ってるというのも、わかるというか、写真はじめたはいいけど、テキトーにしか撮れない感じ、それもInstagramで発信して、ネットの海に流すのとは違う、個人的な写真が撮りたい、でも生活や等身大の感覚がなくなりすぎると写真はウソっぽくなる、そんな感じが描かずに伝わってきて素直にいいと思える。

 このマンガはJazzyだ。

 どこまでも感覚でアレンジして遊ぶ、言葉にならない言葉のドライブ。

 確か、すーちゃんには高校の吹奏楽部に入ったけど、体育会系のノリが嫌で、吹奏楽部を辞めたというエピソードがあった。

 音楽は文学に比べて、フィジカルな面があるので仕方ないことだけど、遊びやアレンジがないことがすーちゃんにとってキツかったのだろう。

 僕も料理教室で同じ経験をしてるので、よくわかる。

 そんなことはどうでもいい。

 このマンガを読んでわかるのは、オトナのモラトリアム、それもJRの広告に出てるわたせせいぞうの描いてる大人の休日倶楽部のようなマダムの休日ではなく(僕はわたせ先生の描くあの感じ天国だと思ってるけど)、しぶーいオトナの休日を過ごすのは、経験値がいるということだ。

 感覚でドライブして、遠くまで来ちゃったなみたいな、寂しいけど充実してるオトナのモラトリアム。

了 

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