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評論 アニー・エルノー「若い男」 熟年の女性が好きなのに、若い女性の身体の誘惑には勝てない彼は美学をわかってないし、そこを結婚の問題として攻める彼女はセクシーすぎる

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南野 尚紀 

1. イントロデュース

 ダンテはフィレンツェ追放にあった後、ベアトリーチェのような女性と会うことができたのだろうか。ボッカチオの『デカメロン』の映画を見ると、なんとなくだけど、会えたんじゃないかって感じがする。理由は読んでいて、子どもの頃、会った女性を描いてるだけには思えないからだ。

 彼女は本作の最後で、書くことによって現実を引き寄せたと書いている。

 2、3週間のズレはあったけど、小説が現実になったということだそうだ。

 彼女の結婚に対する理想は、高貴だ。

 本論の最後でも書いたが、僕もアニー・エルノーに似ている結婚寸前までいった仁美さんとの結婚を現実に引き寄せるために、美学エッセイを書き、具体的な結婚生活の理想も書こうと思う。

 「若い男」の評論はかなり深く書けたと感じるので、ここでうんざりせず、本論まで読んでいただけるとありがたい。

   2.作者紹介

  アニー・エルノーは、1940年生まれ、フランス出身の作家。

 ルーアン大学、ボルドー大学で学び、高校、中学、遠隔教育センターで教鞭を執る。

 2022年ノーベル賞を受賞。

 アニー・エルノー賞も設立された。

   3.あらすじ

 フランスに住む若い大学生がある日、50代になる彼女と付き合う。

 彼女は貧乏生活を送っている彼に、文学、演劇、ブルジョア社会の作法などを教え、付き合っていくうちに、結婚の話まで出る。

 彼女と彼は、将来、結婚することを話し、涙ながらに抱き合い、ベッドで快楽の極致を味わうが、彼女は彼との結婚を選ばなかった。

 彼女は彼を突き放すように、小説にも彼と別れる話「若い男」という小説を書き、2、3週間後にそれが現実になる。

   4.本論

 正直に思うのは、「若い男」に比べると、「嫉妬」の方がおもしろいということだった。

 もちろん、「若い男」にも、美学を意識する人間特有の葛藤や天上的な感覚というのは表現されているし、他のアーティストにはない表現をしているが、「嫉妬」に比べて、天上的な感覚が遠いのと、アニー・エルノーにとって、「嫉妬」に登場する男性の方が重要で好きだったんだろうということがわかってしまうところが、「嫉妬」の方がいい作品と感じる理由だ。

 僕は彼女がオートフィクションというか、エッセイのように体験記として書いているが、体裁は小説としてる作品として捉えているし、彼女自身もそのつもりで書いてると思うので、ヒロイン=彼女とするが、彼女は好きになった男性ひとりひとりを区別することができないと書かれていて、つまり好きになった男性がみんなどこかでつながっているという感覚を持っている。

 それを強調して書くところが、前に好きだった中でもいちばん好きな男性とのつながりの中で、反省会をお互いにやってるというか、彼のことをこうしてあげたかったし、彼はそれのお返しをくれるだろうという感覚がどこかにあり、つまり、前に好きだった男性が主で、彼は従であり、別の姿でしかないという感覚があるように感じられてならないのだ。

 ポイントとしては、登場人物の男性、表現される事柄やムードからどんな人物かがだいたい想像できるが、彼が時代や年齢を超えて人を愛することを教えてくれるにも関わらず、彼自身は若い女性の身体が好きというところは重要だ。。

 つまり、当たり前だが、現実の恋愛は天上界のことが深く関係あるけど、その影響によって出現した現実に対する感覚は、また別にあるということなんだろう。

 彼女は妊娠中絶して、堕胎した胎児のことと彼を結びつけて書いている。

 つまり、永遠の掟を破ったわけではないにせよ、その罪の罰を受けているという側面と、精神的にもマダムで、身体的には53歳の自分が、若い男と付き合うということは、若い女性に対する眼差しをずっと受けることになるし、この本を読んだあたしのファンには、もしあたしと似た女性と結婚をしたいのであれば、この試練を乗り越えなくてはならないというメッセージ、来世の自分と来世の彼へのメッセージのようなところがあって、そこを感じさせるところは秀逸だが、「嫉妬」もその要素があるので、「若い男」の方が上とは言えないだろう。

 「自分は人生を変えることができる、と思うのが私は好きだった」と、彼にスラングで罵声を浴びせたり、彼に文学、演劇、ブルジョア社会の作法を教えるということのあいだに入ってる部分が、この小説のクライマックスのようにも思えて、突然、入ってくるアフォリズムだけど、前後のことと彼女と彼らの中で関係が深くある、だがそれがなぜつながっているのかは明確でないし、どこか別に切り口から考えないと、その理由を説明する美学は現れないのだろう、しかし、感覚的にはこの表現が理想であり、どんなに言葉を尽くしても、この感覚表現の無限さ、彼の官能の源泉であることは変わらないだろうという表現のようで、彼女が言いたかったのは、人生の判決は変えられるというダンテの『神曲』で表現されていることと、同じことでもあるし、彼女が彼によって変わったと感じるのが好きだ、ということでもある。

 友達から、「閉経になった女とよく付き合えるな」とか非難されて苛立ってるのでしょと、彼に言えないほど彼の彼女の嫉妬に対する情熱があるということも書かれているが、ここで僕が考えたのは、閉経になった女性と結婚できるか、というか、閉経の重みをわかって彼女のような女性と結婚できるかということで、答えは即答でイエスだった。

 彼女は、自分の年齢を考えて、彼と別れた、つまり重たい現実に付き合わせたくないということがあったし、「若い男」を書くことで、それを現実に近づけたと勇気を持って書いているけど、彼女にとって、彼は「違う男」でもあったんだろう。

 彼女の理想は、年の差を本当に超えてきてくれる男性だったし、それでも彼の現実には若い身体の女性への欲望が隠せないというその部分があり、それが愛らしかった部分もあるし、彼女がいちばん好きだった男性のそのいやらしい、俗っぽい部分、しかも女性への眼差しを暴露することが、結婚の問題であり、美学において重要な問題なのだと言わんばかりに、読者に突きつけてくるところが、最高だ。

 しかも、理想の彼がなんていうことなく、その身体の若さへの欲望を軽々と乗り越えてくるのをわかって、彼のエッチな部分を結婚と美学の問題として突きつけてくるところは、最高に誘惑的だろう。

 僕はアニー・エルノーに似てる結婚寸前までいった仁美さんとの結婚を、前よりもしたいと思った。

 それも彼女との理想を描くことによって、それを現実に近づけることができる、ギリシャ神話のピュグマリオンのように、もっと理想と現実を交えて、想いを込め、仁美さんとの交際の反省会も込みで、キレイな言葉で結婚生活を塑像することによって、それを成し遂げようと思う。

了 


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