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評論 オルガ・トカルチュク 『優しい語り手』 女神には永遠に恋愛感情の源泉であってほしい、女性にとっては当たり前のポストモダンの乗り越え方

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南野 尚紀  

 オルガ・トカルチュクはポストモダンの旗手と呼ばれているそうだが、村上春樹、保坂和志、オルハン・パムク、オルガ・トカルチュクが、なぜポストモダンの先にいけないかという問題の答えとその共通点が、『優しい語り手』を読んでわかった。

 村上春樹、オルガ・トカルチュクは、罪業の否認、主に、古今東西普遍の法則に照らし合わせての罪業の否認、保坂和志、オルハン・パムクは女性らしさというものを受け入れないという女性へのスタンスの問題が、彼ら彼女らをポストモダンの先へと向かわせないのだろう。

このことは各々が作品を読んで理解した方がいいと思うので、詳細は書かないが、今回は独断と偏見を時々含んでいる『優しい語り手』の評論に集中する。4人の作家とも娘のようなかわいさを含む自由な作家だが、オルガ・トカルチュクはとても頭がいい。

 第1章については、以前、別のエッセイで書いたので、第2章「「中欧」の幻想は文学に映し出される」にフォーカスして、かつ、すべてを語ることもできないので、その優れているパートについて述べていこうと思う。

 「中欧と呼ばれるものはある、仮にそれがまずはその概念に好意的な知識人の頭脳のうちに存在するものだとしても」。

 本エッセイの中で、いちばん大きな収穫はこの名句だった。

 彼女によると、ポーランドはキリスト教を外部との壁としつつ、西欧を追いかけてきたという歴史があるそうだけど、それも単純に理解可能なものではない、理解不可能さを抱えて存在する田舎としてのポーランドでもあり、それがまるで知識人の理想が形作った土地と文化そのもののようなのだそうだ。

 僕はポーランドをはじめとする東ヨーロッパは好きだけど、歴史的な観点からの把握をあまりしてないので、言われて見れば確かにという内容だった。

 僕の解釈ではこうだ。

 ポーランドを含む、東ヨーロッパは、南ヨーロッパにとって、永遠に物事への認識や恋愛感情の源泉であってほしいという存在を熟知した人々の感覚があり、そのことと現実の土地のあり方が大きく関係ある。

 男性一般はこうではないが、一部の女性らしい女性を愛する男性や、一部のアーティストにはこういう感覚があるはずだ。

 女神のような女性が確かにこの世にいるが、その人は、永遠に捉えどころのない、理解できないがだれよりも理解し合える存在であってほしいという感覚。

 最初に挙げた4者が今後、どうなるか、来世でどうなるかはわからないが、ぜひ女性らしい女性とはなにかについて考え、気がついてほしいと思う。

 石原慎太郎は日本ではめずらしく、ポストモダンの先を見せてくれた作家のように思える。

 しかし、彼もまた中上健次とそこは似ていて、大河小説、サーガに逃げることで、女性らしい女性から逃避をした部分もあると言えるのだろう。もちろん、中上健次は最後まで、女性とはという本質論から逃げない部分もあったが。

プラトン的な意味で石原慎太郎は、女性らしい女性への執着をなくして、ポストモダンの先を見せたし、男性性を重視しすぎるプラトンの方法でも、日本であっても、それは可能であると示したが、やはり世界の真理、王道はアニー・エルノー、ダンテ、シンボルスカにあった。

 ダンテも『神曲 煉獄編』で書いている通り、そもそも世の中なんか人間の知覚ですべてを捉えることなんてできないのだから。

 しかし、ダンテはそうわかっていて構造を一定程度放棄しつつも、なぜそうなるのかという哲学の部分は捨てなかった。

 むしろこう言えるだろう。

 構造認識を放棄することによって得た哲学が、勝手に構造なんて作ってくれる。

 それにしても、アニー・エルノーとシンボルスカは、ダンテがわからなかった恋愛の哲学を書き起こし、書くことでさらに女性らしい女神の神秘性は深まるばかりだと理解させてくれるところが天才だ。

 なんだか、オルガ・トカルチュクについて書くつもりが、ポストモダン作家批判、ダンテ、シンボルスカ、アニー・エルノーの賛美になってしまった。

 オルガ・トカルチュクに関しては、もし機会があれば、もう1冊くらい読んでみるので、評論を書いたら、ぜひ。

了 

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