南野 尚紀
Pisaに住もうと思って、Pisaに数日滞在したけど、結婚のことがどうも気になって、Firenzeに移動した。
Pisaはいいところだけど、Firenzeの方が結婚相手を探しやすいと感じ、数ヶ月前に訪れたFirenzeに戻る。
愛に偽りがあってはならない、というのは『新約聖書』のPaulosが書いた「ローマ人への手紙」の一説だけど、人間に対する愛ではなく、街に対する愛も偽りがあってはならないのかもしれないと、その後で感じた。
Firenzeのサンタマリアノヴェッラ駅に到着したのは、午後2時。
初めて来た時と違って、まるでFirenzeが故郷のように感じられる。
以前、迷った道も、「なんでこんなところで迷ったんだろう。ここをまっすぐ行けば、アルノ川に出るのに」と思ったり、「この雑貨屋で、夜、ダンテがサンタトリニタ橋を渡っている様子を描いたオブジェを買ったな」とか、「フェラガモの展示も見たし、この先で、真夜中にモデル女性が写真撮影をして、見るだけで高貴な気分になれたこともあった」とか、「ドゥオーモから南へ降って、ZARA、ヴェッキオ橋、ピッティ宮殿、マフィアを名乗る男と女性に声をかけた9時閉店のバル、マキャヴェッリ通り、ぜんぶ通り過ぎて、山道をのぼり、ミケランジェロ広場にたどり着くこの通りはいい。そういえば、この前、詩にも書いたな」など、すでにどの街よりも追想をめぐらせることができる心地のいい街になった。
Firenze!
アートを愛する街!
どの街よりもあたたかく人々の個性や美学、包み込む!
サンタトリニタ橋の上空に浮かぶ気球も、心なしか雄大だ!
宝石店だけで埋め尽くされているヴェッキオ橋を渡って、首を左手に持ったペルセウスの像の横のホテルに入る。
クレジットカードのエンコードを受け取るための電話番号の設定変更の連絡が、営業時間の関係でできなかったため、ホテルは予約してない。
人気のありそうなホテルだったが、運がいいことに泊まることができた。
ホテルの部屋に入る。
部屋では音楽番組を見ながら、Angelina Mangoという、優れたアーティストがいることを知った。
その番組は、音楽ニュースをやってるかと思ったら、キャストがみんなで踊り出したり、音楽に関する討論をやったりする番組だ。
Angelina Mangoをフィレンツェ買い出し紀行で紹介しようと思い、イタリア語の歌詞が英語に翻訳されたものを日本語に訳す作業をしばらくやっていると、お腹が空いてきたて、食事に出かける。
ピッティ宮殿の前で、以前Instagramを交換した女性が、今日もストリートで絵を売っているか見たが、彼女はいなかった。
彼女が恥ずかしそうに隠したダンテがおばあさんになって描かれた絵がほしかったので、彼女を探したが、休日しかいないのだろうと思いつつ、通り沿いの店に入る。
ピッティ宮殿の目の前にあるレストランの中に、ボロネーゼパスタがおいしいお店があるので、今度それもフィレンツェ買い出し紀行で紹介しようと思いながら、メニューを見て、シーフードリゾットを選ぶ。
明日、会う日本人女性の話では、Firenzeは山の幸の方がおいしく食べられるとのことだったが、この時はそれを忘れていた。
夕暮れ前のピッティ宮殿を眺めながら、アペロスピリッツを飲み、シーフードリゾットを食べる。
Firenzeはなんでこんなに安心するんだろう。やはり芸術の都だからなのだろうか。Danteは政治家になって、Firenzeを追放されたが、彼がもし芸術と生活を重んじつつ生きていたら、Firenzeにずっといられたのだろうか。
そもそもDanteは戦争にも参加する人だし、世間に流布しているイメージ以上に、戦ったり、説教したりするのに積極的だったから、芸術と生活に甘んじる人でもないんだろうけど。
そう思いつつ、食事を終えて、English Partyの会場へと向かう。
だいぶ早く着いてしまったので、近くのバルに入って、村上春樹の小説を読みながら過ごしたが、それでも時間があまり、会場に早くついてしまった。
パーティでは久しぶりに、ワシントン出身のCimikoと話したが、彼女は元気がなく、「政治の話をしたい」という男性がいたことが関係してるのか、僕がトイレから帰ってきた時に泣いていた。
イラン人女性Shabbouの話によると、トランプが勝ったことが悲しいとのことだそうだ。
理由を聞いたが、わからなかった。
Shabbouはアーティストで、造形美術をやっている。
Instagramを交換した時に、作品を見て、「フェミニズムのアートだ」と話したら、「そう」と答えていた。
パーティには僕のことを覚えてる人が数人いて、それもうれしかったが、以前、来てた「7年、このパーティに通ってる」と話していた男性が来てないのはなんでだろう、とも考える。
もちろん答えは出なかったけど。
「政治の話をする」と意気込んでた男性も政治の話をしてなかったが、確かに政治の話はしたいと思い、Shabbouと欧米の政治について話すことに。
僕が、「移民は欧米に迷惑をかけてる」、「ヨーロッパ人とアジア人では、信じてるものが違う」、「ヨーロッパはヨーロッパの伝統を守るべきだ」と話したら、Shabbouは「あなたは日本から来たから、移民だけど、そのことがどういうことかわかってるの」とか、「いろんな文化が交流できるから、世の中は豊かになる」とか、「あなたはイタリア語もしゃべれないし、ここの文化も受け入れてない」と言われたので、「あなたはFirenzeの伝統が好きなんじゃないのか?」と聞いたら、なにも言ってなかったし、僕はそのあと、メローニもFirenzeもフェミニストを守ってくれるということを言いたかったが、彼女は話をイラン料理に切り替えてしまった。
イタリアに住んでる女性の話題を切り替え方はうまくて、ふつうにしゃべっていると女性に会話の主導権を握られてしまう。
ギリシャ人と名乗っているイタリア人、Marinaの意見は「異文化を知った方がお金持ちになれる」とか、「世界中にいい人はいる」というものだった。
Firenzeはローマやナポリほど保守じゃないと聞いていたけど、実際にそうなんだろうかと思いながら、「Firenzeで結婚したい」と言ったら、「イタリア人と結婚したいんだ」と言われ、「Firenzeに住んでる女性」と言い直したが、みんなうれしそうに笑ってたのは不思議なことだ。
Shobbouにパーティに来てる世界的なアーティストを紹介してもらい、「Instagramを交換したい」と話したら、「500€」と言われたので、笑ってしまったが、無事交換できた。
彼に「エッセイと詩を書いてるので、ぜひ読んでほしい」と言ったら、「もちろんいいよ」と言っていたから、安心した。
帰りにShabbouと一緒になり、彼女と話す。
Shabbouはイランにいた時にすでにアーティストで、「イランよりもFirenzeの方が芸術をやりやすいから、こっちに来た」と話していた。
彼女と別れ、夜のアルノ川を眺めながら、思ったことがある。
欧米の外で芸術をやりづらいのは、どこに行っても同じなんだろう。僕もFirenzeに守られて文学をやるべきだ。Firenzeの夜は、どこまでもあたたかくてやさしい。Firenzeの夜に包まれて、もし平凡だとしても一生を終えられたらしあわせだ。詩を書いているって話したら、みんなすごくよろこんでくれたし。
夜はやさしい。
Firenzeの夜は、世界でいちばんやさしい。
了
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