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評論 パウロ 『ローマ人への手紙』――善をもって悪に勝ちなさい――

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南野 尚紀 

 イタリアには教会がいろんなところにあって、日曜日にはミサが行われている。

 僕はまだ教会には行ってないけど、いずれイタリア語がしっかりわかるようになったら、行ってみたいと思う。

 とあるきっかけがあって、パウロの『ローマ人への手紙』を読んだことがあった。

 原文ではなく、翻訳の日本語で読んだ。

 序盤は、ローマ人が義に達するには律法よりも祈りの方が大切だ、ということが説かれている。

 律法というのは禁止することで成り立っているから、結果として、形式にとらわれすぎたり、欲望にとらわれやすくなったりするからだ。

 僕もパウロがいっていることが、わかる気がする。

 基本的に、すべての人間が善の道を志して、正しく生きようと祈り続ければ、律法はいらないはずだからだ。

 僕は『ローマ人への手紙』の12章が好きで、読むたびに心が楽になる。

 『ローマ人への手紙』をはじめとする『新約聖書』、『旧約聖書』を読むきっかけになれば、僕としてはうれしい。

 少なくとも心の平穏を保つための助けにはなるはずだから。

 「あなたがたはこの世と妥協してはならない。むしろ、心を新たにすることによって、造りかえられ、何が神の趣旨であるか、何が善であって、神に喜ばれ、かつ全きことであるかを、わきまえ知るべきである」

 今の世の中は特にそうだけど、生きている限り、世の中と妥協しないというのは、難しい場合もある。

 仕事、結婚、趣味、生活、さまざまな問題が人生にはあるけど、その根本はやはり、人間の魂と深い関わりがあると思えてならない。

 神の趣旨、善、何が全きかを知ることは、簡単ではないけど、僕が思うに、本当に正しい心を持って、正しい行いをしようとした時に、特に襲いかかってくる困難や厄災は、何が善で、何が全きかを知っていないから、災いがその人を狙ってくるのだろうと思う。

 悪い人に狙われたり、心身ともに病気になったり、理由がわからない困難に見舞われたりするのは、やはり理由があることで、それ自体はよくないことだと思うけど、それを乗り越えることが善への道だという気がしている。

 善人がその人に不快なことを伝えてきているとすれば、それはどんな影響があったとしても、その人が悪い道を進んでいるという話なのだろう。

 悪人がその人に不快なことを伝えてきているとすれば、それはどんな影響があったとしても、その人が善の道を進んでいるという話なのだろう。

 「愛に偽りがあってはならない」

 古代ギリシャの哲学者・プラトンは、恋愛感情が幸福や厄災につながっているということを『饗宴』で書いていた。

 僕も愛に偽りがある時に、失敗することがある気がする。

 その人のすべてを愛することはもちろんだけど、最後に信じられるのは言葉だ。

 僕が敬愛しているスペインの作家、Irene Vallejoが昨日、Instagramの投稿で「愚か者が多ければ多いほど、すべてを知る者が力を得る」という趣旨のことを述べていた。

 すべてというのは、その人が知るべき全き知恵、本当の正しい知恵のことだと思うし、なぜ愚か者が増えているかという理由は、きっとすべてを知る者と関わりがあるのだろう。

 言葉こそが愛を知る最良の術であると僕は信じているから、この言葉は僕にとってすごく大切だ。

 愛を知る言葉は、全き知恵の源泉だから。

 「だれに対しても悪をもって悪に報いず、すべての人に対して善を図りなさい。あなたがたは、できる限りすべての人と平和に過ごしなさい。愛する者たちよ。自分で復讐しないで、むしろ、神の怒りに任せなさい。なぜなら、『主が言われる。復讐はわたしのすることである。私自身が報復する』と書いてあるからである」

 僕は人生のある時期、正しい心を持っている人にも、悪い心を持っている人にも、平和な心でよい言葉をかけるのは、正しい心を持っている人を裏切ることになるんじゃないかと思ったことがあった。

 ある日、気がついたのは、悪い心を持っている人にも、平和な心で正しい言葉掛けや対応をしないと、結果として、より悪い心を持っている人を呼ぶことになるし、復讐心を呼ぶことになりかねないのは事実だということだ。

 もうひとつ重要なのは、善の心を保たないということは、平和な心、正しい言葉を奪われているということでもあるということだから、やはり、平和で正しい言葉を使うべきだと心から信じている。

「悪に負けてはいけない。かえって、善をもって悪に勝ちなさい」

 愛情、全き知恵、神の趣旨、神による復讐、平和の心、耐えること。

 12章の中だけでも、いろんなテーマが含まれていたけど、いちばん重要なのは耐えることなのかもしれない。

 なぜ世の中には、耐えることや不幸があるのかは難しい問題だ。

 フローレンスは、心を平和に保って、善に生きるにはすごくいい街だと僕は思ってる。

 パウロはもともと異教徒だった。

 人生の途上で改宗し、『ローマ人への手紙』という偉大な作品を残したけど、彼は異教徒だったからこそ、善の大切さが人よりわかってたのかもしれない。

 それがパウロに与えられた神のミッションの一つだったとも思えるし、善の道を行こうとするほど、パウロの著作から学べることは深く大きいんだろう。

了 

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