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フォトエッセイ マヨナカベル 第2夜 Primaveraまでの距離

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南野 尚紀  

 朝、3時に目が覚めて、インドの音楽をYouTubeで流しながら、お風呂で瞑想をする。

 瞑想は仁美さんのことを思い浮かべながら、体全身の力を抜き、心の声に耳を澄ませるようにしてやっている。

 どんな心の声が聞こえたかは、一日経つと、ほとんど忘れてしまうんだけど、心がスッキリしてるのでそれでいいものなのだ。

 その後、Udemyでウェブデザイナーになるための動画を見てたんだけど、しばらくして目が開けてられなくなった。

 目も心も限界に来ているのだ。

 そんなわけで、目薬を点け、にこるんのブランドのスウェットの上に上着を着て、散歩に出ることにした。

 最初は写真を撮るつもりもなかったし、鎌倉駅まで歩くつもりもなかったけど、あまりにも風景が美しいので撮ってしまう。

 朝焼けまでいかない、島に残照が出ている感じは神秘的だ。

 鎌倉高校駅前から、七里ヶ浜を超え、稲村ヶ崎へ。

 稲村ヶ崎温泉もいつかまた入りにきたいなとか思いながら、通り過ぎる。

 稲村ヶ崎の切り通しの先に見える海は昼間もキレイだけど、こんなに暗い時に通ったことがなかったので、暗い時の方がキレイだなと思った。

 歩きながら、ぼーっと鎌倉駅のファミマでおにぎりを食べようかなとか、20代後半からよく行ってるカフェPrimaveraの写真は、このフォトエッセイの最後に持ってこようかなとか考えていた。

 疲れてるし、難しいことはあまり考えない方が今はいいなと思いつつも、ダンテの『帝正論』をパラっとめくった時に、目に入った言葉がずっと気になっていて、そのことを思い出す。

 「神が獅子たちの口をふさいだので、獅子たちは私に害を加えなかった。これは私の中に正義が存在することが神の前に認められたからである」。

 『新約聖書』の「ダニエル書の6章」からの引用だそうだ。

 ダンテがこの言葉について、どう述べているのかはまだ読んでないが、おそらく肯定的に捉えて、この言葉を引用しつつ、持論を述べているんだろうと思ってる。

 帝正論だが、本当の皇帝であっても、自分の中に正義があることを神に認めてもらうと、獅子のような気の強い人が害を与えなくなるということなのだろうか。

 ダンテは政治をやって、失敗して、Firenzeから追放されてるから、自分と政治の相性の悪さをよくわかっているんだろう。

 僕にとっても政治は必要であり、どこか不幸を呼ぶものだという位置付けである。

 僕が気になってるのは、この正義がダンテにとって、どのようなものだったかで、もちろんひとえには言えないんだろうけど、それをもっと知りたい。

 僕も精神の美を極め、結婚相手にそれを見てもらい、結婚し、そのエッセイを書きたいから。

 そんなことを考えながら、写真を撮ってるうちに、由比ヶ浜に着く。

 ここには150回くらい来てる。

 波が砂浜を撫でて、引いて行くようすは見ていて飽きない。

 獅子の口を塞ぐ正義というのは、案外穏やかさの中にもあるのかもしれない、と海に打ち寄せては、引いていく波を見て思った。

 結婚のことを考えても、仁美さんに似た人だって、現れたらきっと自分に穏やかさを望むはずだ。

 帰りは、Primaveraの写真を撮って、ファミマで昆布のおにぎりを買って食べて、鎌倉駅から江ノ電で鎌倉高校駅前まで帰った。

 駅前はスラムダンクの聖地になっているので、朝の6時半にはもう写真を撮ってる若い人が数人いる。

 スラムダンクは花道が合宿をする回が好きで、あの回だけでももう一回読み返したいな。

 そう考えながら、息を切らして、急な坂を登り、家に着く。

 家では、Udemyをやって、アントニオ・タブッキの『イサベルに ある曼荼羅』を読むか、1時間くらい仮眠をとって空にするか考えながら、あたためたスープを飲みつつ、このエッセイを書いていた。

了 

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