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文学あれこれ雑記 第1夜 芥川賞はくれると言われてもいらない、文化勲章の重み、鎌倉は趣味に生きるにはいいところ

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南野 尚紀 

 文学を14年もやってるといろんな情報を仕入れることになるし、それについて考えることも増える。

 僕は普段、天上界における存在論とか、存在の喜劇性とか重いテーマについてエッセイで書くことが多くて、その他は、文芸評論、映画評論、マンガ評論、旅行と文学のエッセイ、文学のお役立ちエッセイとかそんなのばかりなんだけど、たまには雑記みたいな、どうでもいいと言えばどうでもいいけど、文学が好きなら知っておいてもいい話を書こうと思う。

 まずは、芥川賞について。

 14年近く前、文学をやってる年配の先生から聞いて、驚いたことがあったんだけど、それは「芥川賞は文藝春秋の営業政策だ」ということで、僕もまだ20歳でこれから趣味で文学を続けてくかって時だったから驚いた。

 当時は芥川賞って聞くと、全員がすごいわけでもないんだろうけど、やっぱり雲の上の存在で、文学の全国大会1位で、プロになることが確定する賞だと子供じみた考えがあったから、これは衝撃だった。

 現実には、芥川賞を受賞してもプロとして残れる作家は数少ないし、死んだ後にもファンが残ってずっと読み継がれる作家は稀で、保坂和志さんなんか芥川賞を受賞する前から「芥川賞なんて大したことない」と言ってたらしい。

 僕がこんなこと言うと驚かれるかもしれないけど、僕も芥川賞はいらない。

 結局、受賞したら、出版社や文学界とのしがらみもできるだろうし、世間の顔色伺って作品を書くくらいなら、本当に自分の作品を好きで読んでくれる人を賞を受賞する以外の方法で集めた方が、よっぱどいい文学人生が送れそうだと思うからだ。

 書きたくない作品を書くっていうと、単なるワガママみたいに聞こえるけど、実際には自分の人生のスタンスを崩すことだし、そもそも僕は天上界への伝令を送って、地上界における自分の人生を変えることや、古代ギリシャのピュグマリオンっていう、理想の女性の彫刻ばかり彫ってたら、その人が現れたという話のように、いい女性と知り合うために書いてる部分もあるから、それをワガママだと言われるのは困る。

 芥川賞を受賞すると、作品や文学活動で社会的説明責任を果たす必要が出てくるので、これはむしろ邪魔になるなとかも思うし。

 実際、芥川賞を受賞したけど、その後、何を書いて、どうやって生活してるんだろうみたいな人はいるし、時々、文芸誌に作品が掲載された原稿料くらいで生活ができるはずもないので、そのことからも芥川賞って1つのチャンスでしかないなと。

 この話題も飽きたし、次行こうかな。

 文学賞関連の話だと、「大江健三郎が文化勲章を受賞できなかったのは、「セブンティーン」を書いたからだ」と同じ先生が言ってて、大江健三郎は政治的にかなり危険な思想を背景に小説を書いていたので、今思うと当然だなとは思うけど、当時はまだ若かったから、「文化勲章って一回間違った作品書くと、それだけで選考対象から除外されるんだ」とか、そんな子供じみたことを思ってた。

 「セブンティーン」は、中学の頃の友達に勧められて読んで、政治が好きな少年が風呂に入ってる時に、お姉さんが風呂に入ってくるシーンとか、「俺は右だ」、「俺は右だ」って心の中で繰り返しながら、天皇の批判をしに行くんだっけな、大嫌いだからもう忘れたし確認もしないけど、そんなシーンがある小説だったはずだ。

 正直、大江健三郎の小説を読んで、人生が良くなるのは一部の学者とか作家だけだと思うし、真に受けて読んだら、アルバイトが関の山だろうから、僕は読まないことをオススメするけど、こういう作家を出しちゃいけないという文化勲章を授与する側の社会的説明責任を果たす義務も、授与しなかった背景はあるんだろう。

 なんかつまんない話しちゃったな、次行くか。

 保坂和志さんという芥川賞受賞作家で、鎌倉に住んでる人、僕も何回も講演会に参加して、顔を覚えてもらえたんだけど、この人は本当にいい人だ。

 保坂さんに、小説的思考塾の後の懇親会の時に、お酒を飲みながら、「保坂さんの話、聞いてる時に、昔、保坂さんが「夢のあと」っていう小説、みんなで鎌倉の由比ヶ浜銀座歩いて、幼稚園に出る話ありましたけど、あれで一緒に歩いてる男が、落ちこぼれのための塾をやりたいんだって話してるシーンあったじゃないですか、あれ突然、思い出したら、なんだか泣けてきちゃったんですよね」って話したら、「そんなのあったかな。俺の書く鎌倉はね、よくない鎌倉なんだよ。鎌倉って、昔は特に、観光客にはわかんないような雰囲気とかあって、それ書きたくて」って話したことがあって、僕も鎌倉は100回以上遊びに行ってるから、どのくらい知ってるかわからないけど、それについて考えたことがある。

 鎌倉って、鎌倉幕府がはじまった土地だし、東京からアクセスもいい、海のある人気の土地だから、富裕層が多かったり、仕事もそれなりにやりつつ、サーフィンやりながらゆっくり暮らす人が多かったりするっていうのは、湘南の江ノ島の近くにマンスリーアパートを借りて住んだ時、実感を伴ってわかった。

 要するに、趣味人が多いんだけど、ユニークでなかなか理解されない人とか、ゆっくり生きすぎて、あんまり人生が楽しい方向に回ってないのかな、っていう人もいるんじゃないかって、なんとなく推測できる感じがある。

 保坂和志の『季節の記憶』の主人公も、コンビニ本のライターをやって、1人で子供を育ててて、楽しく生きてるし、頭もいいけど、社会的地位とか収入は高くない。

 近くの家に住んでる松井さんも、会社を辞めて、何でも屋をやってて、家の修繕とか、庭の整備とか、家電の修理とか、地域の人が困ったことがあったらなんでもやるっていう仕事をしてるけど、稲村ヶ崎の外に出ると、どんな顔で人から見られるかは、正直わからない感じの人だ。

 その他にも、クイちゃんは幼稚園に行かないで、自宅で遊んで生活してるし、松井さんの妹の友だちには、社会学の大学院に行きながら、あまり勉強もせず、サーファーをやってる女の子もいるし、主人公の友達の蝦乃木も和歌山の旅館を親から引き継いで、世界を幸せにする新興宗教をやるのが夢だって言ってる、ふつうに見たら、驚かれる感じの人でもある。

 保坂さんの話を聞いた時に、瞬時にこのことが言いたかったんじゃないかってことまではわからなかったけど、保坂さんは落ちこぼれの集まる塾をやりたいと言ってた笠井さんという登場人物の名前を覚えていたから、このことを言いたかったのかもしれない。

 つまり、観光客としてきただけでは、笠井さんのようなユニークな人がよく住んでいる

土地だということはわからないということだと僕が思ってる。

 僕はイタリアに住むから、1年に1回、日本に帰ってくればいい方だけど、帰ってきたら、湘南か、横須賀のゲストハウスに短期で滞在するかもしれない。

 僕が思うに、東京以上に趣味人に寛容な街だっていう印象があるし、海もあるから。

了 

#小説 #文学 #エッセイ #文学あれこれ雑記 #保坂和志

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