南野 尚紀
Danteの語源は、ラテン語のduranteから来ていて、意味は「持続するという意味だそうだが、これは「耐える」という意味もあり、神父がダンテの運命が「耐えること」、「永続すること」と関係が深いと思い、つけた名前だそうだ。
この言葉は英語のendureの語源にもなっている。
このこと自体は、前から知っていたが、ではBeatriceはどういう語源から来ているのかは知らなかった。
Beatriceは「恩恵を与える」という意味がそもそもあるそうだが、イタリア語のbene良い、bellissimo美しい、beato teうらやましい(男性)、これらと響きが似ているbeautyの派生語を調べると、英語のbelvedere展望台、beldam高齢女性と関係があり、ここから考えさせられることは多い。
特に響きが似てるbeato teは、Dante作品の中で描かれるBeatriceの性格の本質と関係がある気がしている。
「うらやましい」は「嫉妬」の意味に近いので、日本語ではマイナスの意味に使われるが、イタリア語ではおそらくマイナスの意味に使われることはない。
純粋に素晴らしい、尊敬したくなる、ありがたいの含みがある、うらやましいなのだろうし、BeatriceのDanteに対する隠された思い、その反対にDanteのBeatriceに対する想いを表す表現に近く、対極でかつプラスの要素を持つ者同士が惹かれ合う姿そのものを表してもいるだろう。
それにしても、Beatriceは天国でDanteを待つあいだ、なにをしていたんだろうか。
彼女が煉獄に降りてくるのは、一度だけだ。
今読んでいる、アニー・エルノーというノーベル賞を受賞したフランス人女性作家の作品「シンプルな情熱」の冒頭では、主人公の女性が彼に会えるとなった瞬間に情熱に浮かされたようになる様子を描いている。
彼と交わるために家を整えたり、映画を見たり、読書をしたり、生徒の回答を採点したり、彼に会う準備をし、それ以外の人との会話は、魂が入ってないかのように、意志に関係がなくうわのそら。彼女と同じく、Beatriceも待ってる時の情熱、つまり天国での人間関係、地上にも伝令を送ることが可能な情熱があり、同じように過ごしていたが、Danteの前でその様子をあまり見せないので、Danteは会った時の冷ややかさとその内に秘めた情熱に差があることをLa Divina Commediaで表現したんだろうし、それが天国の中では、比較的地上的で、そのこととBeatricesが作中でも天国に入った一般人だったことと、Danteがふつうでは考えつかない哲学的、美学的なことを考えるにも関わらず、作中では一般人だったことと、お互いを天国でも地上でも尊敬し合えることが、天国の中心に2人が近い理由の一端となってるのかもしれない。
La Divina Commediaは天国の成り立ちや、なぜ天国、地上があり、どこからそれらが来たのかという起源とあるように思える。
天国で神々がどんな仕事や遊びや恋愛をしてるかの全貌はわからないが、彼ら2人の恋愛は天国でもうらやましがられるようだ。
了
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