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評論 石原慎太郎 「暴力計画」――世代を超えて、個性やリーダーの価値を問い続けることの意味について――

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南野 尚紀 

   1.イントロデュース

 石原慎太郎は、日本の作家では僕が中上健次の次に尊敬している作家で、政治家としても、故郷を愛した湘南人としても尊敬しているし、イタリアに来てからもたまにだけど、石原慎太郎のことを考える瞬間がある。

 彼は湘南高校にいる時、引きこもって絵ばっかり描いていたが、父親に死に際して、復学し、作家、東京都知事にまでのぼりつめた人でもあり、多彩でありながら、多難なひとだったと僕は思う。

 90年代、文化的には繁栄していた日本だったが、失われた世代とも呼ばれ、リストラや就職難に陥った暗い側面もあった。

 石原慎太郎が政界進出したのは96年。一時、衆議院議員を辞めたが、1999年に東京都知事に就任し、4選を果たす。失われた世代、そして彼と同時期の安保、全共闘世代に希望の火を灯すべく現れた流星のような人だったと僕は思っているが、政治活動のみならず、作家としての活動も華々しかった。

 これは私見だけど、90年代、終身雇用制への懐疑心から脱サラして、自分の趣味を仕事にするというのが流行ったが、時代を飾ったアーティスト、そしてその後も本当の活躍をしたアーティストは一部だったし、その人々に通底している美学は、個性を尊重するということだったように思う。

 個性教育のまっただなかだったあの時代。日本において、個性とはなにかという世の中の問いに最高の形で答えたのは石原慎太郎だったんだろう。坂井泉水もその1人だが、個性がなんであるかという問いは存在への問いかけであり、人類の叡智そのものだから、その意味で人類の最高の問いに挑んだとも言える。

 個性教育がどの程度成功し、現在継続しているかという問いはさておき、その解決策の1つは「暴力計画」の中にもあるし、日本の生き残る道もが示されていると思う。

 答えは単純で、真のリーダーやその人物を支える人間をいかに評価できるかが日本の生きる道そのものだからだ。

 もちろんそれには、真のリーダーやその支持者の敵対者と戦う勇敢な人間を正統に評価するということも含まれている。

 真のリーダーへの賞賛はその実、勇気のいることでもあり、個性を強く保ち、自立した人格を磨くということは、やはり精神的な葛藤なしではありえないからからこそ、多くの人が個性や精神の葛藤の問題で思い悩むんだろうし、これはポスト団塊世代の子供の世代であるゆとり世代の問題でもあると思う。

   2.作者紹介

 石原慎太郎はいわずとしれた、日本の作家であり、政治家だ。

 文学者としては、一橋大学法学部在学中に、『太陽の季節』で文學界新人賞、芥川賞を受賞。その後も、文藝春秋読者賞などのさまざまな文学賞を受賞し、芥川賞の選考委員も長く務める。

 主著は、『「NO」と言える日本―新日米関係方策―』、『男の粋な生き方』、『弟』、『湘南夫人』。

 政治エッセイ、自伝的エッセイ、ミリタリー小説、スポーツ小説、青春小説など、ジャンルは様々。

 作家では、三島由紀夫、中上健次、猪瀬直樹との交流が深く、猪瀬直樹は石原慎太郎の評伝を書いているし、中上健次もエッセイで石原慎太郎を絶賛している。

 政界進出する前に、東映で働いていたこともあり、映画や演劇関係の仕事にも携わったりしていた。

 スポーツにも関心があり、湘南高校ではサッカー部に所属。大学卒業後も、テニスとヨットレースを続けていて、ヨットレースでは大会で圧倒的な戦績を残す。ちなみに、神谷町にある石原慎太郎の部屋には、ヨットレースの大会で優勝した際のメダルやトロフィーが多数飾ってある。テニスに関しては、テニスに集中しすぎて、国会の時間に遅れたことが物議を醸したことも。

 政治家としては、衆議院議員、運輸大臣を務めたのちに、東京都知事で四選を果たす。

 ディーゼル自動車の排ガス規制、首都大学東京の設立(今は東京都立大学に戻ってしまったそうだ)、東京マラソンの創設を支援。東日本大震災の際には、福島の汚染された瓦礫の一部を東京都が引き取ると宣言し、問題解決に一役買った。記者会見で、東京都以外の地域が瓦礫を受け入れないことを非難し、「我欲のみに固執するから天罰がくだるんだ」という趣旨の発言をして、バッシングを受けたことも。

 日中友好の印として、パンダを日本の動物園で飼育するにあたっては、「パンダには尖閣と名づけてるべきだ」という趣旨の発言もあった。

 アジアの問題に対しては、「尖閣諸島を東京都が購入する」という発言や、「日本の朝鮮学校では日本を蔑視するような歴史教育をしているから、税金を使って支援する必要はない」との発言により、在日朝鮮人に脅迫状を突きつけられたり、命を狙われたりしたこともあったが、積極的に日本の文化や安全保障問題に取り組んだ。

 アメリカに対しては、横田空領の問題、そして沖縄の軍事基地での軍人による少女のレイプの責任を追求しない日本政府の姿勢にも、疑念を呈し、解決に取り組む。

 生涯、タカ派の政治家として、活躍し続け、時代を象徴する人物となった。

 彼が仲間と創設した「青嵐会」は、中川一郎、浜田幸一、渡辺美智雄を中心とした政治団体だったが、「歯に絹着せぬ」「いたずらに議論に堕することなく、一命を賭して、右、実践する」、をモットーとしており、忖度をしない態度も人気を博したひとつの理由とされている。

   3.あらすじ

 今年、80歳になる老人、「私」は、戦時中、田口という司令官が司令を出したインパール作戦に参加させられ、死地を潜り抜けることになる。

 インパール作戦は、考案当初、ミャンマーのインパールを攻め落とすという作戦だったはずだが、ミャンマー(当時のビルマ)からタイに逃げるという作戦に切り替わり、主人公は味方の兵隊が赤痢にかかって倒れたり、気が狂って暴れ出したりする中、草木や人肉を食ったりしながら、白骨街道と呼ばれるほど、人骨が落ちているジャングルの中を歩き続け、タイに辿り着く。

 その後、日本で平穏の日々を過ごしても、「私」はずっと司令を出した田口を殺したいという思いを抱えていた。

 ある日、現代史家の男の報告で、殺意が燃えがった彼は、田口のもとを訪れ、彼を殺害する。

   4.本論

 石原慎太郎は戦時中にはまだ子供で、戦地に赴いて戦ったわけはないけど、日本にいて空襲を経験して命の危険にさらされたこともあるし、軍人だった叔父が戦争で命を落としてるから、戦争のことは当然よく知っている。

 当時の日本軍は、特攻隊もそうだけど、ジンギスカン作戦っていう、山を超えるために牛に荷物を運ばせて、頂上まで来たら牛を屠って食糧にするって作戦とか、この小説に出てくるインパール作戦みたいな欧米から見たら、本当に勝つ気があるのかっていうような作戦を多く実行したし、南京大虐殺も死者の数がどのくらい出たかは定かではないけど、軍教育のなされてない未熟な軍人を中国に送って、他の戦争に一級の軍人を備えおいたから起きたっていう説があるらしい。

 そんなことも込みで、凶弾に倒れてしまった安倍晋三元首相もテレビで、集団的自衛権の行使、積極的平和について、女性から「うちの夫が、もし戦争に行ったらと思うと不安で」という問いかけに対し、「軍の近代化が行われているので、少数精鋭の方がいいんです。なので、徴兵制は行うことはまずありませんので、ご心配なく」って言っていたし、事実そうなんだろうけど、もしかしたら戦争に嫌々行くような兵士を自衛隊に入れても、自衛隊の士気が下がるだけだし、スパイにでもなられたら困るっていう本音はあったと思う。

 「暴力計画」で描かれるインパール作戦の死地をくぐり抜けるシーンは魅力的で、どんな理不尽な困難にあっても耐え忍べば、きっと助かるという希望が描かれているようで最高だ。

 そのあとの田口っていうインパール作戦の指揮をとった司令官がいる囲碁教室に紛れ込んで、囲碁打ちながら、相手を拳銃で撃って殺害するシーンも、本当に人を殺したことがあるんじゃないかっていうくらいリアリティがある。

 実際、人間は人生の戦いに挑む時、精神衛生上よくないと思っていても、心を強くして、敵と立ち向かうということは必要で、イメージトレーニングの時点で相手に負けてたら絶対に負けると僕個人は思ってるし、石原慎太郎の国会答弁の動画を見てると、彼、かなりイメトレはしたんじゃないかって思う。

 「暴力計画」のおもしろいのは、インパール作戦指揮官の田口が、実質、日本軍の人間を六,〇〇〇人以上殺しているのに、一度、シンガポールに移住させられた後、罪に問われることはなかったという点で、さらには作品内では、敵の敵は味方であるように、敵軍にとってむしろ都合のいいことをしたから、なんらかの形で罪を免れられたんじゃないかっていうことが書かれている点にもある。

 古代ギリシャの時代から、プラトンが言っているように、国家の擁護者と国を統制する人間は重要で、これを間違うとすべてが間違った方向に行く。

 いちばん重要な構造がこの作品でも描かれていて、それはつまりプラトンが言ったように、国際政治や国家の政治を考える上で、いかに哲学が重要かということでもある。

 当然といえば当然だけど、どんなに力があっても間違った方向に行使したら、悪になるし、醜い国家にもなるし、力の使い方すら間違うことがあるのも事実だ。

 どこの国とはいえないけど、世の中で悪党とされてるあれらの国や、それらを支持してる国はどのくらい正義を貫き通せる国に対して、反省して謝れるかは重要なんだろう。

 石原慎太郎も存命中、国の存亡に関わる敵や敵の味方をする人間、つまり敵なわけだけど、その人たちには厳しい発言をした。

 これも当たり前だけど、戦争に参加しないことを理由に払っている義援金、従軍慰安婦問題などにより、他国に支払っている金は血税から支払われてる。

 横田空領の問題もそうだけど、ちゃんと自分たちがアメリカに守ってもらうために意見を言わないのは間違いで、アメリカにも守ってもらうために、時には弱腰にならずに意見をいうことも大切だということは「Noと言える国日本」にも書かれているらしい。

 僕は今、イタリアにいて、いずれイタリアに住む予定だけど、キレイという意味ではどの国も敵わないくらいなんじゃないかなぁ。

 哲学も重要だけど美学っていうのはもっと重要で、それがなぜ美しいのかという質を問う学問だから、これはもっとやるべきだと思う。

 プラトンの政治哲学は、結局、生活や恋愛にはまるで関係ないから。

 生活とか恋愛に関係がない国家はおよそあり得ないし。

 石原慎太郎の名作、ぜひ読んでみてください!

   5.参考文献

 石原慎太郎 『石原慎太郎 短編全集Ⅱ』 幻冬舎

 プラトン 『国家』 岩波文庫

了 

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