南野 尚紀
想像力に翼を与える力ってなんなんだろう。答えはいろいろあるかもしれないけど、結局、それは、あの日、言えなかった言葉なのかもしれない。すべては、時間の質と関係があるし、夢の中で僕がなにかを考えて、それを夢の住人に伝えたことで、夢を変えたあの瞬間にも似てるし、もっといえば、フローレンスにいたあの詩人、ダンテを怒らせたものはなんだったんだろうっていうあの問題にも繋がってる気がする。それでも僕は、勝手に想い浮かぶイメージの中でいつでも会えるあの3人のことを信じたいし、結婚のために生活も安定させたいんだけど。
シエナに来て、2日目の夜にこのことを考えた。
仕事とか勉強で頭が疲れた時、休もうとすると、運命的な出会いがあるっていうのは僕の中ではよくあることなんだけど、想像力に関して、わからないことがある。
それは想像の中で会える人の話。
本人にみられたら恥ずかしいけど、それはなぜか、日本のモデル・にこるん、スペインの作家・Irene Vallejo、ZARD・坂井泉水だ。
にこるんとは50秒しか会ってないし、IreneはDMでやりとりしただけだ。
にこるんはモデルだけど、いつもルックス、ラテン語で「光」を意味する「lux」の語源になってるこの概念の大切さを伝えてくれている気がする。
坂井泉水はいつも時間について、歌ってた。
この頃、思うのは、「見つめていたいね」っていう曲に、「話すことがなくなったら、キスして」っていう歌詞があるけど、それが「愛は眠ってる」の「たたみかける言葉、今は眠ってる」っていう歌詞と繋がってる気がする。
ローマにいた頃からずっと思ってたのは、Ireneが「ギリシャの英雄は恫喝の使が訪れたら、焼きだこを食って、お酒を飲んで騒ぐんだ」ってエッセイで書いてたけど、ずっと焼きだこ食べて騒いでるわけにはいかないだろうってことで、そういう騒がしい時や心が落ち着かない時は、やっぱり、好きなひとの思い出を思い出すのが心の平穏にはいいってことなんだろう。
それがこのふたつの歌詞に繋がってる気がする。
未来に向けて動き出した時、ひとは時間のなさに気がつく。
古代では砂時計で時間が測られていた。
あれは砂つぶが重力の力で下に落ちる重力の法則を利用して作られたもので、みんなが同じ時間を共有するために作られたわけじゃない。
上と下が広がっていて、真ん中が狭くなっていて、少しずつしか砂が落ちないから、砂が落ちるのに時間がかかる。それで砂がすべて下に落ちた時に何分経ったかがわかる仕組みになってる。
男女が向かい合ってるトリックアートにも似てるし、ピラミッドと逆ピラミッドを合わせたような形になってるから、古代のヒエラルキーも関係してるかもしれない。
それをみてると、時間ってもしかして粒子でできてるんじゃないかとか、手からこぼれ落ちる砂みたいに儚いものなんじゃないかとか、ひっくり返したひとが指定した時間からスタートして、終わりの時間までしか明確にはわからないのはなんでなんだろうとか、いろんなことを考えさせる。
今は腕時計みたいに、針がグルグル回って、数字を指してる時計とか、スマホとか、パソコンとかに数字だけを表示させる時計が、世の中にたくさんあるけど、砂時計とはかなり印象が違う。
話は飛ぶけど、ずいぶん前から夢の中で、自分がなにかを明らかに考えたり、そのことを夢の中の人物にいって、夢の内容を変えたりしたらしいことを覚えてることがある。
運命や自由を自分の意思で変えられるかどうか、僕にはわからないけど、目が覚めてそれを思い出した時、夢がそのヒントなんじゃないかってよく思う。
ダンテはフローレンスの田舎に生まれたふつうのひとで、ルネサンスをはじめたひとだってもされているけど、彼は怒るのが苦手だったそうだ。
嫌なことがあっても好きな女性に会うとぜんぶ許すし、紀元前1000年前からさかのぼっても、こんなひとはいない気がする。
なぜなら、彼はフローレンスでふつうに好きな女性と結婚できてしあわせに暮らせればそれで満足できるひとだし、どんな時代とか場所に生まれても、明らかに同じことを思ってただろうことは想像できる。 理想の結婚ができなかったからなのかと少し前までは思ってたけど、やっぱり許せない悪党が何人もいたから、人生の戦いに挑んだんだろう。
好きな女性、たたみ掛ける言葉、眠り、時間、夢、歴史、結婚。
時々、仕事の都合とかで、日本に帰ったり、南ヨーロッパ、東ヨーロッパはいったりすると思うし、一生、イタリアに住む予定だけど、この7つは大切にしたい。
生活の安定のことや土地のことはもちろんだけど、やっぱり捨てきれないのは、この7つだし、僕の人生には不可欠なものだと思うから。
了
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